鳥は殺された。殺されて冷《つめた》い血汐《ちしお》のなかに横《よこた》わったことは事実であった。けれども慈悲深い死の翼あるその矢のために、駒鳥は正直な鳥の、常に行くべき処《ところ》へ行った。そしてそこで――ああ嬉《うれ》しい――彼は先へ行って居た自分の最愛の妻と子にそこで逢《あ》ったのでした。
「駒鳥の親子は、今はみんなそこに居るんですよ。この世に住んだうちでは一番しあわせな駒鳥なんだよ」と母様はあなたの涙に濡《ぬ》れた頬にキッスしながら仰言《おっしゃ》った。
 大きく見ひらいたあなたの眼には、もう涙は消えていた。あなたは正直な鳥の行くべき処に居る駒鳥のことを遠く思いやった。駒鳥の眼、駒鳥の紅《あか》い胸は再び輝いて居た。彼は囀《さえず》り、歌い、そして妻子を連れて枝から枝へと飛び移った。小さい話を繕うことも、小さい人の心を繕うことも、小さい靴下を繕うことのように母様は実にお手に入ったものであった。こんな時にはいつも、あなたの靴下からは膝小僧が覗《のぞ》いて居た。日の暮れには、きまって靴下に穴があいて、そこから泥だらけな膝《ひざ》が見えるのでした。
「まあちょっと御覧なさい、たった今洗
前へ 次へ
全17ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
竹久 夢二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング