まえに立塞《たちふさが》って、あなたは勇ましく拳《こぶし》を握りしめた。
「私の母様に触っちゃいけません!」
あなたの唇はわななき、眼《め》は怒《いかり》と涙で輝いて居た。けれども、母様はあなたをかばいながら、
「パパさんは、串談《じょうだん》なんですよ」母様はあなたを胸に抱きよせて、
「御覧よ、パパは笑ってらっしゃるよ」と仰言《おっしゃ》った。
パパは
「やアい、こわっぱ、パパは串談でやってるんだよ」
母様は、ほほえみながら、しかもほこりがに、あなたの涙を拭《ぬぐ》っておやりになった。あなたは、あなたの方へ手を差出して居るパパを、いぶかしげに見やった。そして母様に押されながら、おずおずとパパのところへ行った。
パパは仰言った。
「お前はいつでも今のように母様に尽さなければなりません。そしてパパが居ない時には、誰《だれ》でも他処《よそ》の人に、母様がいじめられないようにするんですよ」
母様はあなたの額にキッスして、
「母様を護《まも》る軍人なんだもの」
そしてこれからのちは、あなたが近くに居る時には、母様に心配はなかった。
「ああ、あの荒木《あらき》の奥さん、あれにはまた弱
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