動かしておいでだった。
「母様はなぜそんなにチクチクばかりしてるの?」
「坊やには青い水兵服と、嬢には紫のお被布を拵《こしら》えてあげようと思ってさ」
「母様はチクチクが好きなの?」
「そうとも思わないけれどね」
「だって……母様は飽きないの?」
「ああ、そりゃ時時はねえ」
「じゃお休みなさいよ。ねえ母様」
「お休みって? 坊や。ああ休みましょう。いま少し縫って、そしたら遊びましょう」
「だって、母様は、いま少し、いま少しって、一日かかっちまうんだもの、ねえ、母様てば、母様」
あなたは少し考えて
「もう縫わなくってもいいのよ」
「もういいって? この児は」と母様はお笑いなすった。あなたも笑った。
後にあなたは、
「母様とは私の面倒を見て下さって、私を可愛《かあい》がって、そして、いま少し、もう少しって――終日《いちにち》――縫物をして居る人です」
と人人に話してきかせたのでした。そうすると、その人達は、母様が子供達の面倒を見て下さるからには、子供|達《たち》もまた母様の為《ため》にしてあげなければなりません。とあなたに話しました。そして、あなたは実にその言葉の通りにやった。母様の
前へ
次へ
全17ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
竹久 夢二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング