しゃるのに」
「だって、だって、母様、母様がなさる様じゃないもの、神様は母様のようじゃないんだもの」
蜂《はち》と風とは林檎《りんご》の枝に音を立てて居た。もう五月になったのだ。庭にはあなたと母様とただ二人、真白《まっしろ》な花びらが雪のように乱れて散る。あなたはお祖父《じい》様が拵《こしら》えて下すったブランコに乗った。
青葉の影はそよ風につれて揺れる。あなたの心はあなたの夢みるままに揺れた。
風は林檎の枝に歌い、花のたわわな枝は風に揺れ、風に撓《しな》った。
あなたの頭上はすべてこれ空飛ぶ鳥と、鳥の歌。あなたの周囲《まわり》はすべてこれ、風に光る草の原であった。
あなたはブランコが揺れるままに、何時《いつ》かしら、藍色《あいいろ》のキモノに身を包んで藍色の大海原を帆走る一個の船夫《かこ》であった。
風は帆綱に鳴り、白帆は十分風を孕《はら》んだ。船は閃《ひらめ》く飛沫《しぶき》を飛ばして駛《は》せた。鴎《かもめ》は鳴いて大空に輪を描《か》いた。そうしてあなたは、海の風に髪をなぶらせつつ、何処《どこ》までもと、ひた駛せに駛せた。
船は錨《いかり》を下した。
動揺は止ん
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