慣に過ぎない。彼のこの惡習慣を改めることが困難な如く、彼女が今更に言葉を手段とするある復讐戰をはじめることも、ちよつと困難なことに違ひない。
○
習慣の動機にもおもしろいのがある。いつかの新聞にあらゆる蟲類を食ふ男の記事があつた。子供の時彼の父親が「日本は人口が殖えて今に食料品が缺乏するだらう」といふのをきいて、國家のために蟲を食ふけいこをはじめたといふのだ。ちよつと笑へない。
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春は飛ぶ
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指がまづそれと氣のつく春の土
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これは最近「雛によする展覽會」のため、人形をつくる首を泥でこねた實感をうたつた句である。今年は春が早くきて庭の梅もくれのうちから蕾みそめて、雪がきたらどうすることかと心配しながらアトリエの窓から人形をつくりながら時折梅の枝を眺めやつたものだつた。しかし彼女はためらいながらも、氣まぐれな寒い日暖かい日を送り迎へながらも咲いた。季節のうつりかはりや、花の咲くけはひなどをこんな心持で觀察したり感得したりすることは近來のことだ。少年時代にはまるで美しい景色とか花とか注意を向けなかつたと
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