をその通りにおとなしく承認したとしても、ヒステリツクに泣き出したとしても要するに彼が敗るのだ。
委しくいへば、彼は言葉の理詰で自分の納まりのつかない激情をごまかして自分をなだめようとしてゐるのだ。たとへば
「何んぼ何でも、あんな男のどこをあたしがすきになれるか考へて御覽なさい。とるにも足りないあんな男を嫉妬するなんて、あなたの人格にかゝはりますわ」
こゝで納まりをつけることが出來れば、彼は人格を高めると同時に不快な印象を一掃することが出來て二重の利益があるわけだ。それでも彼が納まらない顔をしてゐると見るや、彼女はとつておきのトリツクをだす。
「こんなにいつてもあなたはあたしを信じないのね、それぢやあなたはもうあたしを愛してゐないのね」
彼女のこの逆説的巧妙な暗示に彼の構へがくづれたら家内安全。
○
憎むことも出來ない。許すことはなほさら出來ない。
「ちきしやうどうしてくれよう」
こんな風に下司な言葉で現はす方が、一番感情に直接でまた感じも出てくる。
○
彼女の場合には運命の決定を意味する不貞が、彼の場合には煙草をのむほどのほんの日常の惡習
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