を指した。
「炭燒小屋でせう」
「兎に角、あの方向へいつて見ませう」
 さう言つてまた峠を下つていつた。こゝで二人はかなり元氣を囘復してゐた。
 果してこれは炭燒小屋であつた、人がゐるとも見えなかつた。
「こゝからなら川の方へきつと道がありますね」
 二人は路を見つけて、その路を歩き出した。路は次第によくなつた。そして川の方へ向いてゆくのだつた。言はず語らず、二人はもう歸途に就いたのであつた。川瀬の音がはつきり身近かに聞かれるやうになると、路は急な坂になつた。二人はもう、別な冒險をやりながらどん/\走つてゐた。
「來た/\」
 幹の間に、白い小川がちら/\と見えるのだつた。瞬く間に私達は、川の淵まで降りて來た。そして路は川の向ふについてゐる。上から見た時には、一間にも足りないまでの川だと思つたのに、淵へ来て見ると、夜來の雨で水嵩が増して二間位ある。その黄ろい水が渦を卷いてゐる。幅二間半とは、後で考へたことで、その時には音にきく富士川の激流のやうに思へたのだつた。だから、勢よく先きに歩いて來た、N君はいきなり飛越える姿勢《ポーズ》をとつた瞬間、自分は抱きとめてしまつた。ほんたうは、たとへ
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