が、地方の農家で婚禮の時に使ふ簟笥掛だの傘袋だの風呂敷の紺木綿の模樣《デザイン》が、悉く天平物です。女の顏もやはり天平顏ですね。そのくせ男の顏は諸國の影響を受けてゐるせゐか、純粹の大和民族といふ趣はありませんね。ぼくはこゝで降ります」
須田町で降りてぼんやり――さうだ、ぼんやりという姿勢《ポーズ》ではあつたが、なか/\ぼんやりしてはゐなかつた。電車や自動車になど脅かされるのがいま/\しいから、銅像の下へ立つてゐたのだ。いつもこゝを通る時、電車の窓から見えるのは、中佐殿の脚下に見得をきつてゐる何とか曹長の顏だけだが、今夜はつく/″\中佐殿の雄姿も仰ぎ見ることを得た。中佐殿はまだ好いが、曹長の耕されてゐない、何を植えても生えさうもない荒地のやうな、せゝこましい、とても怨めしさうな勇しさは、今にも躍りかゝつて、さうだ何の見わきまへもなく劍附鐵砲で突刺されさうなのであつた。
それから無宿の神樣は、信ずる者の所へいつたであらうか、それを知つてゐるのは、お月樣だけでありました。
山の話
登山會といふ會はどういふことをするのか私は知らないが、多分、人跡未踏の深山幽谷を踏破する人達の會で
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