し水に二人の名ぞながむ。
[#ここで字下げ終わり]
 どこまでも品よく、おつとりと自然の風物に心をよせた所に上方唄の特色はあるやうに見える。最後に、京の女について話を添へてこの稿を結ぶ。
         ○
「……一體京都の女は着物をきるんぢやないんです。たゞ身體に卷きつけるんです。帶の結び方も知らないらしい。祇園あたりの女でも、あつたら上等の帶を、くるりと卷きつけてもつさりと結んでゐるんです。だから着付けがすぐに、くづれて、腰から下にまるで都腰卷をはいたやうな恰好になるんです。
 元來、人間の體の最も效果的《エフエクチーフ》な美しさは、立姿にあるんです。人間が他の動物より進化論的に區別の出來るのは、人間は直立して歩くことが出來るからださうです。どんな動物でも脚を一直線に延長して、足の甲と直角をなす位置で直立することは出来ないさうです。動物は必ず膝を曲げて立つてゐます。「布團着て臥たる姿や東山」全くさうです、山が眠つてゐるやうに京都の女は座つてゐる方が、よほど美しいやうです。それで自然的に、立姿の審美的考察が後れたのかもしれません、だから着物や帶は、素晴しく金の高い代物をつけてゐても
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