吹きわけて四條橋を渡るすさまじさ。それにしても世が世なれば、四條橋の下には、一臺十五錢と言ふ安い床が出來て、なんのことはない「夜の宿」の背景のやうな所なれど、河原の夕涼の面影を殘した唯一のもの、風は叡山おろし、水は加茂川、淺瀬をかちわたるよきたはれめもありといふ。
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秋の夜や加茂の露臺にしよんぼりとうつむける子にこほろぎの鳴く
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 秋が立つといふのに、日のうちはさすがに日本一の暑さ、東京がいつでも京都よりも十度から涼しいのはすこしくやしい。こんな夕方には銀座を歩きながら資生堂のソーダ水でも飮みたいがそれよりも播磨屋が見たい。この頃に、魚がしの人から播磨屋の舞臺姿に添へて、すばらしくいきな下駄を贈つて貰つたが、好い折がなくてまだ履かないでゐる。南座へ播磨屋でも來たらはくことにして樂しんでゐる。
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金と青やなぎ花火のふりかゝる兩國の夜をきみと歩みし
堀留の藏の二階の窓の灯の青くわびしき夜もありぬべし
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 ある日。京極に三馬がかゝつたときいたので、S君とおし
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