を知らぬ人のやうに、長い間見つめてゐた。

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ふたりをば
ひとつにしたとおもうたは
つひかなしみのときばかり。
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 二人の上にかなりの月日が流れた。處に馴れ生活に慣れ運命に慣れて、二人があり得ることを感謝する念がなくなつたから、二人はもう全く別々な生活の感覺を持つやうになつた。それでも人生の路上には運命の恐しさを感じて、一つ線の上で心が觸れ合ふ時がある。悲しみの涙の中に二人の心が漂ひながらいつか抱合ふ。

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いつのゆふべの枕邊に
おきわすれたる心ぞも
けふのわが身によりそひて
さみしがらする心ぞも。
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 うか/\と戀のために戀をしてゐる時分の夢のかず/\は大方忘れてしまつたが、それでも淡い記憶の中に、純眞な心持で觸れあつたものだけは忘れられずにゐる。それで今の孤獨な靜寂な生活の折々に思ひ出されて却つて自分をさびしくするといふのだ。

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わかきふたりは
なにもせず
なにもいはずに
ためいきばかり。
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 逢つたらあれも聞きたい、これも言はう、と胸一杯に「
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