自畫自贊

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ほんたうの心は互に見ぬやうに
言はせぬやうに眼をとぢて
いたはられつゝきはきたが
何か心が身にそはぬ。
昨日のまゝの娘なら
昨日のまゝですんだもの
何か心が身にそはぬ
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 男は女の貞操を疑つてゐるのである。ほんたうの事を知りたいけれど、聞くのを恐れてゐる。それでも何かのふしにとう/\言つて了つた。女はつと顏をあげて氷も燃えるやうな眼ざしをして、男を見つめた。やがて口の端に不自然な冷笑を浮べたかと思ふと「あなたは馬鹿ね!」と言つた。
「あなたの胸へ顏を埋めて泣きながら、ひどいわ/\ほんたうにそんなことなんかないんですもの。と言へばあなたはすつかりほんたうになさるでせう。けれどあたしがあつた事をすつかり話しちまつたらあなたはまあどうなさる。そして、それをほんたうにしないで、まだ外にもあるだらうつて、きつと聞くでせう。あたしはあなたにくど/\と責められるのがうるさいから、好い加減な事を言ふわ。それをあなたは聞きたいんですか?」男は世の中がくら/\つと覆つたやうに感じて、剥製の梟のやうなうつろな眼を女の方へ向けて、いふべき言葉
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