歌であらう。田之助はほつそりした美男であつたのに、私はこんなに丸つこく肥つてゐる。松二郎は身にあはぬ、浴衣の袖を今更のやうに引張りながら考へるのだつた。
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わが戀はあさぎほのめくゆふそらに
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はかなく消ゆる晝の花火か
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細腰の紅《あけ》のほそひもほそぼそに
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消ぬがにひとの花火見あぐる
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ほのかなる浴衣の藍の匂より
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浮き名のたたばうれしからまし
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     東京地圖

 東京に住んでゐては、東京のどこが好いのか、なぜ好きなのか解らないが、東京の新聞も入らないやうな山間の温泉場などへいつてゐて、雨に降りこめられて寫生にも出られないし、持つて來た本も讀みつくした時など、どうかして東京地圖など熱心に見てゐることがあります。なかなか懷しいものです。この町にもこの町にも住んだことがある、さう思ひながら、その時の生活や、生活の感覺を思ひ出します。
 物心がついてからずつと東京に住んだ私にとつては、一片の東京地圖は、實に有機的な私
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