》をつくのもつひわすれ
灯《ひ》のつく街《まち》がこひしさに
山から港《みなと》へではでたが
日がくれるのに山寺《やまでら》の
鐘《かね》はつんともならなんだ
村長《そんちやう》さまはあたふたと
鐘撞《かねつき》堂《だう》へきてみれば
伊部《いんべ》徳利《とくり》に月がさし
ちんちろりんがないてゐた。
アトレの馬ではあるまいし
鐘《かね》がならうがなるまいが
子供のしつたことでなし
うらの菜園《さゑん》の椎《しひ》の木に
ザボンのやうな月がでた。
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 ゆく春

くれゆく春のかなしさは
白髪《しらが》頭《あたま》の蒲公英《たんぽぽ》の
むく毛《げ》がついついとんでゆく
風がふくたびとんでゆき
若い身《み》そらで禿頭《はげあたま》。


くれゆく春のかなしさは
薊《あざみ》の花をつみとりて
とんとたたけば馬がでる
そつとはらへば牛がでる
でてはぴよんぴよんにげてゆく。
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 くすり

雪《ゆき》はしんしんふりしきる。
炬燵《こたつ》にあてたよこはらが
またしくしくといたむとき。

雪はしんしんふりしきる。
しろくつめたき粉《こな》ぐすり
熱ある舌《した》にしみ
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