眠《ねむ》りゐし
猫《ねこ》をめがけてつきければ
虎は屋根よりころげおち
縁《えん》のしたへとかくれけり。
さすがに猛《たけ》き清正も
虎のゆくえの気にかかり
夜《よ》な夜《よ》なこわき夢《ゆめ》をみき。
[#改ページ]
禁制の果実
白壁《しらかべ》へ
戯絵《ざれゑ》をかきし科《とが》として
くらき土蔵《どざう》へいれられぬ。
よべどさけべど誰《たれ》ひとり
小鳥《ことり》をすくふものもなし。
泣きくたぶれて長持《ながもち》の
蓋《ふた》をひらけばみもそめぬ
「未知《みち》の世界」の夢の香《か》に
ちいさき霊《たま》は身《み》にそはず。
窓より夏の日がさせば
国貞《くにさだ》ゑがく絵草紙《ゑざうし》の
「偐《にせ》紫《むらさき》」の桐《きり》の花《はな》
光《ひかる》の君《きみ》の袖《そで》にちる。
摩耶《まや》の谷間《たにま》にほろほろと
頻迦《びんが》の鳥《とり》の声きけば
悉多太子《しつたたいし》も泣きたまふ。
魔性《ましやう》の蜘蛛《くも》の糸《い》にまかれ
白縫姫《しらぬひひめ》と添臥《そひぶ》しの
風は白帆《しらほ》の夢をのせ
いつかうとうとねたさうな。
蔵
前へ
次へ
全24ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
竹久 夢二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング