なき夢

夢のひとつは かくなりき。

青き頭巾《づきん》をかぶりたる
人買《ひとかひ》の背《せ》にないじやくり
山の岬《みさき》をまはるとき
広重《ひろしげ》の海《うみ》ちらとみき。
旅の道者《だうじや》がせおいたる
[#改丁、挿し絵入る、85]
[#改丁]
天狗《てんぐ》の面《めん》のおそろしさ
にげてもにげてもおふてきぬ。
伊勢《いせ》の国までおちのびて
二見《ふたみ》ヶ|浦《うら》にかくれしが
ここにもこわや切髪《きりかみ》の
淡島《あはしま》様《さま》の千羽鶴《せんばづる》
一羽《いちは》がとべばまた一羽《いちは》
岩のうへより鳥居《とりゐ》より
空一面のうろこ雲。
顔もえあげずなきゐたり。
[#改ページ]

 草 餅

ある日学校へゆく路《みち》に
黄《きい》な袋《ふくろ》がおちてゐた
ひろうてみればこはいかに
それは財布《さいふ》でありました。
「さあ大変ぢや大変ぢや
銭《ぜに》をひろへば尋人《たづねびと》
有司《おかみ》へよばれようおお怖《こは》や」
みながはやせばとつおいて
財布《さいふ》を指でさげたまゝ
こりやまあどうしたものだらう。
そこへおりよく先生が
おいでな
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