《おもいだ》しました。どんな物をでも可愛がってやろう、そしてどんな物とでも話をして、仲よくしようとそう考えました。
 街を歩いても、電車のなかでも、もっとみんな仲よく話そうと考えました。そこで妹のお才と二人で街へ出かけてゆきました。
 まず酒屋のブル犬に話《はなし》かけました。
「ブルさん今日《こんにち》は、好《い》いお天気ですね」
 與太郎がそう言うと、ブル犬は驚いて
「ウーウー」と吠《ほ》えましたから、お才がなき出しました。
 與太郎はお才をつれて電車|通《どおり》の方へゆきますと、向うから、黒い毛皮のコートを着た奥さんがくるのを見つけました。與太郎は奥さんにお辞儀を一つして、
「おくさん、たいそう寒い風がふきますわね。おくさんはたいそう重そうな包を持っておいでですね。ぼくが、すこし持ってあげましょうか」
 そういうと、奥さんは白い顔のなかで、黒い眼《め》を三角にしていいました。
「まあ、いやな子だよ。知らない人に物をいうなんて、きっと乞食《こじき》の子だね、お前さんは」
 そういって、ずんずんいってしまいました。
 こんどは、鼻の頭の赤い肥《ふと》った洋服の旦那《だんな》が、坂の
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