方から酔っぱらって下りて来ました。與太郎《よたろう》は旦那《だんな》の前へいって、
「旦那は酔っていますね。」
 そういうと、今までにこにこしていた旦那は、急にきつい顔になって、
「やい孤児院! 酔ったって余計なお世話だい。お世辞をいったって一文だってやりゃしないぞ。ぐずぐずしていると、交番の巡査にふんじばらせるぞ」
 酔っぱらいの旦那はむくむく歩いてゆきました。
 與太郎は、なんだか悲しくなりました。炭屋の子だからいけないのだろうか。與太郎という名が顔に出ているから人が馬鹿《ばか》にするのだろうか。與太郎は、菓子屋の飾窓のガラスに自分の顔をうつして見ました。自分の着ている服は、すこしばかり古くなっているだけで、街を歩くほかの子供たちと、別にかわった所はありませんでした。與太郎は、ふと飾窓のなかに赤い紅茸《べにだけ》のようなお菓子があるのに気がつきました。
「紅茸だ! 紅茸だ! あれをとろうよ」
 與太郎がそういっているのを、菓子屋の番頭が聞きつけて、與太郎の頭を一つなぐりつけました。與太郎とお才《さい》は、なきながら家《うち》の方へ歩きました。質屋の横町を曲ろうとすると、いきなり真黒
前へ 次へ
全6ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
竹久 夢二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング