と、今度はパフシカーヒイにワフチーシイというのが出た。「ああ、もうわかりました!」と婆さんは言った。「これが、この子の運命なんでしょうよ。そんなくらいなら、いっそのこと、この子の父親の名前を取ってつけたほうがましですわ。父親はアカーキイでしたから、息子もやはりアカーキイにしておきましょう。」こんなふうにして*アカーキイ・アカーキエウィッチという名前はできあがったのである。そこで赤ん坊は洗礼を受けたが、その時彼はわっと泣き出して、あたかも将来九等官になることを予感でもしたようなしかめ面《つら》をした。要するに事のおこりはすべてこんな具合であったのである。こんなことをくだくだしく並べたのも、これが万《ばん》やむを得ぬ事情から生じたことで、どうしてもほかには名前のつけようがなかったといういきさつを、読者にとくと了解していただきたいためにほかならないのである。いつ、どういう時に、彼が官庁に入ったのか、また何人《なんびと》が彼を任命したのか、その点については誰ひとり記憶している者がなかった。局長や、もろもろの課長連が幾人となく更迭しても、彼は相も変らず同じ席で、同じ地位で、同じ役柄の、十年一日の
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