あった寝台に臥《ふせ》っており、その右手にはイワン・イワーノヴィッチ・エローシキンといって、当時元老院の古参事務官であった、この上もなく立派な人物が教父として控えており、また教母としては区の警察署長の細君で、アリーナ・セミョーノヴナ・ビェロヴリューシコワという、世にもめずらしい善良温雅な婦人が佇《たたず》んでいた。そこで産婦に向かって、モーキイとするか、ソッシイとするか、それとも殉教者ホザザートの名に因《ちな》んで命名するか、とにかくこの三つのうちどれか好きな名前を選ぶようにと申し出た。「まあいやだ。」と、今は亡きその女は考えた。「変な名前ばっかりだわ。」で、人々は彼女の気に入るようにと、*暦の別の個所をめくった。するとまたもや三つの名前が出た。トリフィーリイに、ドゥーラに、ワラハーシイというのである。「まあ、これこそ天罰だわ!」と、あの婆さんは言ったものだ。「どれもこれも、みんななんという名前でしょう! わたしゃほんとうにそんな名前って、ついぞ聞いたこともありませんよ、ワラダートとか、ワルーフとでもいうのならまだしも、トリフィーリイだのワラハーシイだなんて!」そこでまた暦の頁をめくる
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