チ)があつたので、当時この本営附のカザックをザポロージェ人と呼んだのである。
ポドゥコーワ 土耳古人に殺されたモルダ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ヤの太守の弟だと詐称し、カザックを利用して一時モルダ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ヤの王位に即いたが、後ワルシャワで捕へられ、一五七八年に処刑された人。
ポルトラ・コジューハ これは『皮衣一枚半』といふ意味の、如何にも小露西亜人らしい滑稽きはまる渾名であるが、果して実在の人物か仮装の人か不明なるも、恐らく波蘭に対するウクライナ解放運動に活躍せし英雄ならん。
サガイダーチヌイ(ピョートル・コナシェー※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチ) 一六〇六年よりザポロージェ・コザックの総帥となり、土耳古やクリミヤを攻めて勝利を得、波蘭王ウラヂスラフ四世の莫斯科進撃に味方した人。一六二二年歿。
[#ここで字下げ終わり]
では、これから祖父の怪異譚のひとつをお話しすることにしよう。よく公事《くじ》の代書などを勤めてをるやうな御仁で、今様の通用文はすらすらと読めもするが、ありふれた経文の一つもあてがはれうものなら、さあ頓と一字一句だつて会得ができず、その癖、何かといへば人を嘲るやうに白い歯を剥き出して笑ふだけが能といつた、まことにお悧巧な方々を見受けるもので、さういふ手合には何を話しても、ただもう、にやにや笑つてゐるばかりでな。実に、時世時勢《ときよじせい》とでもいふのか、何ひとつ真《ま》に受けるといふことが無くなつた! 近い話が――これあもう、天地神明に誓つての話ぢやが――あなた方にしてからが、ほんたうにはなさるまいけれど、ある時、ちよつと*妖女《ウェーヂマ》の話をしたところ、どうぢやらう? ひどい悪党もあつたもので、妖女《ウェーヂマ》を信じをらぬのぢや! お蔭でこの年になるまでには、こちとらが嗅煙草を嗅ぐよりもたやすく懺悔僧にむかつて嘘八百をならべ立てるやうな不心得な外道にもよく出会つたものぢやが、そのやうな輩《やから》でも、妖女《ウェーヂマ》の話が出れば、鶴亀々々と十字を切つたものぢや。したが、そんな手合には勝手にさせておくがええ……口にするのも穢らはしい……。何もかれこれ言ふがものはないぢやて。
[#ここから4字下げ、折り返して5字下げ]
妖女《ウェーヂマ》 悪魔に身をまかせて神通力を得た女、人間に害悪を加へ
前へ
次へ
全23ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平井 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング