けれど!……いいわ、今にあたしたちがほんとに新らしく家を持つやうになりさへすれば、あたしが織つてあげるから。まあ、思つただけでもぞくぞくするわ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]さう言いながらも彼女は、市《いち》で自分に買つた、赤い紙で縁を貼つた小さな鏡を懐ろから取りだすと、秘やかな悦びをもつてそれを覗きこんだものだ。※[#始め二重括弧、1−2−54]さうなつたら、あたし、どこで義母《おつか》さんにでつくはさうが、間違つても挨拶なんかしてやらないから。どんなに猛らうが狂はうがかまやしない。さうだとも、ねえ義母《おつか》さん、いくらあんただつて、もう自分の継娘をひつぱたいたりなんか出来ないことよ! あたしや、砂が石の上で芽をふくことがあつたつて、樫の木が枝垂柳のやうに水ん中へお辞儀をつくことがあつたつて、決してあんたの前へ頭はさげないことよ! あら、さうさう忘れてゐたわ……頭巾帽《アチーポック》をかぶつて見なきやあ、義母《おつか》さんのでも、どうにかあたしに間にあふかしら?※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 そこで彼女は鏡を両手で持つたまま立ちあがると、俯むいてそれを覗きこみながら
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