、ころびはしないかと危ぶむやうな、おつかなびつくりの歩調《あしどり》で、床ではなく、昨夜あの祭司の息子が真逆様にころげ落ちた、くだんの板の取りつけられた天井や、壺の並べてある棚を眼下に見おろしながら、部屋のなかを歩きまはるのであつた。
※[#始め二重括弧、1−2−54]ほんとに、あたしつたら、まるで赤ん坊だわ。※[#終わり二重括弧、1−2−55]さう、笑ひながら彼女は呟やいた。※[#始め二重括弧、1−2−54]足を踏みだすのが怖いなんて!※[#終わり二重括弧、1−2−55]
やがて彼女は足拍子を取りはじめると――だんだん大胆になつて、たうとう終ひには左手を鏡からはなして腰にあて、靴の踵鉄《そこがね》の音も高らかに、鏡を片手で前にささへたまま、好きな自分の唄を口吟《くちずさ》みながら踊りだした。
[#ここから3字下げ]
青い青い蔓雁来《つるにちにち》は
低くさがつて床になれ!
眉毛の黒い、好いひとは
こつちいちよいとお寄んなさい!
青い青い蔓雁来《つるにちにち》は
もつとさがつて床になれ!
眉毛の黒い、好いひとは
もつとこつちいお寄んなさい!
[#ここで字下げ終わり]
前へ
次へ
全71ページ中65ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平井 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング