こへ行くだからね。まあ、急いで帰りなすつた方がいいぜ。あつちでお前《めえ》さんの牝馬や小麦の買ひ手が待つてる筈だからさ!」
「なんだと、牝馬が見つかつたちふだか?」
「見つかつたとも!」
 去り行くグルイツィコの後ろ姿を見送りながら、チェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークは、あまりの嬉しさにしばし棒だちになつてたたずんでゐた。
「どうだね、グルイツィコ、おいらがりうりうの細工はまづかつたかね?」さう、くだんの背の高いジプシイが、途を急ぐ若者に向つて声をかけた。「去勢牛《きんぬき》はもうおいらのものだらう?」
「手前《てめえ》のもんだよ! 手前《てめえ》のもんだよ!」

      十三

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何も怖がることはない、
赤い上靴はいたなら、
可愛いお前のその足で
踏んづけさんせ仇きをば
お前の靴の踵鉄《そこがね》が
鳴りひびくほど!
その敵が
鳴りをしづめてしまふほど!
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――婚礼唄――
[#ここで字下げ終わり]

 ひとり家《うち》の中に坐つたまま、パラースカはその美しい頤に肘杖をついて、物思ひに沈んでゐた。さまざまな空想が亜麻いろ
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