んな! どこまでもおらはお前の肩さ持ちたかつただが……。けんど、どうしやうがあるだ? 婆あの肚のなかには悪魔が巣くうてゐるだもん。」
「そんなことあ、おいら、根に持つてやしねえだよ、ソローピイのお父《とつ》つあん! なんなら躯《からだ》を自由にしてあげるぜ!」
 そこで彼は見張りの若者たちにめくばせをした。すると彼等は逸速くいましめの縄を解きにかかつた。
「そのかはり、ちやんと婚礼の運びにして貰はうぜ! さうして*ゴパックでまる一年も足の痛えほど、うんと一つ騒ぐことにさ!」
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ゴパック ウクライナ農民の間に行はれる代表的な舞踏の一種。
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「願つたり叶つたりだよ!」ソローピイはぽんと手を叩いて答へた。「ああ、ほんとに今おいらはいい気持だ、まるで人買ひがうちの婆あを引つ浚つて行つて呉れでもしたやうにさ! なあに、かれこれ考へるこたあねえだよ! 善からうが悪からうが構ふこつてねえだ――けふぢゆうに婚礼を挙げつちまやあ、なんてつたつて後の祭りだあな!」
「ぢやあ、屹度だぜ、ソローピイのお父《とつ》つあん。一時間もしたらお前さんと
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