カ》へやつて来てゐる百姓のチェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークの牝馬を盗みやあがつたんだ?」
「お前さんがたは気でも狂つただかね、若い衆たち! どこの国にわれとわが物を盗む阿呆があるだ?」
「古い手だよ! 古い手だよ! ぢやあ、なんだつて手前はまるで自分の踵へ悪魔が追ひつきかかりでもしたやうに、矢鱈無性に逃げ出しやあがつたんだ?」
「逃げもせにやあなるめえて、悪魔の着物が……。」
「ええ、こいつめ! その手でおいらを誤魔化さうたつて駄目だぞ。待つてろ、今に委員から二度と再びそんなペテンで人を驚かせないやうに、きつと成敗があるから。」
「とつ捉まへろ! そいつをとつ捉まへるんだ!」さういふ叫び声が反対がはの町端れであがつた。「そうら、そこへ逃げてゆくぞ!」
 やがて、我がチェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークの眼前へ、後ろ手にいましめられて、数名の若者に引つ立てられた、見るも痛ましい教父《クーム》の姿が現はれた。
「稀代《けつたい》なこともあるものさ!」と、そのなかの一人が言つた。「この、ひと目で泥棒だと分る悪党の言ひ草を聴いてくれ。どうして狂人《きちがひ》みてえに
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