をうけて言つた。「屹度、おいらをみんなが笑はあな。」
「さあさあ、おいでなさいつたら! あんなことはなくたつて、どうせお前さんは笑はれものなのさ!」
「だつて、おめえ、おいらがまだ顔も洗つてゐねえことは分つてゐべえ。」さういひながらもチェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークは、欠びをしたり、背中をボリボリ掻いたりして、さうしてゐる間だけでも怠ける時間を引きのばさうとするのであつた。
「おやおや、とんでもない時に、清潔《きれい》ずきな気まぐれを起したもんだよ! つひぞお前さんが顔なんか洗つたためしがありますかね? そら、手拭をあげますよ、これでその御面相を撫でまはしておけばいいでしよ。」
かう言つて彼女は何か巻きかためたものを手に取つたが――ぎよつとして、それから手を振りはなした。それは※[#始め二重括弧、1−2−54]赤い長上衣《スヰートカ》の袖口※[#終わり二重括弧、1−2−55]だつたのだ!
「さつさと出かけて行つて、商売をしていらつしやいつたらさ!」と、自分の亭主が怖ろしさのあまり腰を抜かして、歯をガタガタ鳴らしてゐるのを見ると、彼女はやつと気を取りなほして言つた。
※
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