たれてしまつた。教父《クーム》は口をぽかんとあけたまま、まるで化石したやうにからだを硬ばらせてしまつた。両の眼は今にも飛び出しさうなくらゐ、かつと見開かれ、指をひろげた両手は宙に浮いたままビクとも動かなかつた。例の長身《のつぽ》の勇士が、驚愕のあまり天井へ跳ねあがつて、横梁《よこぎ》を頭で小突き上げたため、棚板が外れて、ガラガラつと物凄い音を立てざま、祭司の息子が地面《した》へ転げ落ちてきた。
「ひやあつ!」と絶望的にわめいて一人の男は、怖ろしさのあまり腰掛の上へ打つ伏しになつて、両手と両足でそれにしがみついた。
「助けてくれえつ!」さう喚いて他の一人は、頭から外套をひつかぶつた。
再度の驚愕でやうやく我れに返つた教父は、わなわなと顫へながら女房の裾のしたへ潜《もぐ》りこんだ。長身《のつぽ》の勇士は狭い焚口から無理やりに煖炉《ペチカ》のなかへ這ひこむなり、自分で焚口の扉を閉めてしまつた。チェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークはといふと、まるで熱湯でもぶつかけられたもののやうに、帽子の代りに甕を頭にかぶつて、戸口へ駈け出すなり、狂人《きちがひ》のやうに、ろくろく足もとも見ずに
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