箱になつたちふだのう……。」
「馬鹿なことを、兄弟!」と、チェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークがそれを遮ぎつた。「どうしてそねえなことが出来るだよ、悪魔を地獄から追んだすなんてことがさ?」
「どうもかうもねえだよ、教父《とつ》つあん? 追んだしたものあ追ん出しただ、百姓が家《うち》んなかから犬を追んだすとおんなじによ。おほかたその悪魔の野郎は、なんぞ善いことをしようつてな出来心を起しをつたのかもしんねえだよ、それで出て行けつちふことになつたのぢやらうのう。ところがその可哀さうな悪魔にやあ、どうにも地獄が恋しうて恋しうて、首でも縊りかねねえほどふさぎこんでしまつただよ。だが、どうにもしやうがねえだ! そこで憂さばらしに酒を喰《くら》ひはじめをつたものさ。そうら、お前も見た、あの山蔭の納屋さ、今だにあの傍《わき》を通るにやあ、あらたかな十字架で、前もつて魔よけをしてからでなきやあ、誰ひとり近よる者もねえ、あの納屋を棲家にしをつてな、その悪魔の野郎め、若えもののなかにだつて滅多にやねえやうな、えれえ放蕩をおつぱじめたものだよ。もうなんぞといへば、朝から晩まで酒場に神輿《みこし》を
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