赤い長上衣《スヰートカ》※[#終わり二重括弧、1−2−55]のことで気をもみとほしで、束の間もその穿鑿ずきな心に落ちつきの得られなかつたチェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークが、教父《クーム》のそばへにじり寄つた。
「後生だからひとつ聴かせてくんなよ、兄弟! おらがいくら頼んでも、その忌々しい※[#始め二重括弧、1−2−54]長上衣《スヰートカ》※[#終わり二重括弧、1−2−55]の由来を聞かせてくれねえんだよ。」
「おおさのう! どうもその話を、よる夜なか話すのあ、ちつとべえ具合がよくねえだが、それでもお前や皆の衆の慰みになるちふことなら、(かう言ひながら、彼はお客の方へ向きなほつて)それにお客人たちも、どうやらお前《めえ》とおなじやうに、その妖怪《ばけもの》のはなしを聴きたがつてござるやうでもあるだから、ぢやあ、構ふことはねえや。ひとつ聴きなされ、かうなんだよ!」
 そこで彼はちよつと肩を掻いて、着物の裾で顔を拭いてから、両手を卓子の上へのせて、やをら語りだした。
「何でもある時のこと、どういふ罪でか、そこんとこあ、からつきし分らねえだが、一匹の悪魔めが焦熱地獄からお払ひ
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