ら、おいらは犬畜生だと言はれても文句はねえだよ!」
「それぢやあ、なんだつてお前さんは、急に顔いろを変へたりしただね?」と、お客の一人で、誰よりも頭だけぐらゐづぬけて背が高くて、いつも自分を勇者に見せよう見せようと心がけてゐる男が叫び出した。
「なに、おいらが?……勝手にしろい! 何を寐とぼけてゐるだ?」
客たちはにやりと笑つた。口達者な勇者の顔にも北叟笑みが浮かんだ。
「なあに、この人だつて、今はもう青い顔なんぞするもんか!」と、他の一人が混ぜつかへした。「罌粟《けし》の花みてえな真紅な頬ぺたをしてるでねえか。これぢやあこの人の名前は、ツイブーリャ([#ここから割り注]玉葱[#ここで割り注終わり])ではなくて、ブーリャク([#ここから割り注]赤蕪[#ここで割り注終わり])か、それとも、こねえに人を嚇かしやあがつた、あの※[#始め二重括弧、1−2−54]赤い長上衣《スヰートカ》※[#終わり二重括弧、1−2−55]とでも言つた方がよかんべいに。」
水筒が卓子の上をひとまはりすると、お客一同は前にもましてひときは陽気になつた。この時、もう疾うから、その※[#始め二重括弧、1−2−54]
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