はれる、さまざまな謀計や策略の閃めき――すべてさうしたものが、現にそのとき彼の著けてゐたやうな、一種独特な奇態な服装を要求したかとも思はれた。ちよつとでもさはつたなら、ぼろぼろにくだけてしまひさうな、暗褐色の長上衣《カフターン》、両の肩へ垂れ下つてゐる苧屑のやうな長い黒髪、日焦けのした素足にぢかにはいた半靴――さうしたものがすべて彼の身について、その人柄を形づくつてゐるやうに見えた。
「それが嘘でさへなければ、二十|留《ルーブリ》はおろか、十五|留《ルーブリ》でだつて売つてやらあ!」と、なほも相手の肚をさぐるやうな眼つきで、その顔を見つめながら若者は答へた。
「え、十五|留《ルーブリ》で? ようがす! だが、くれぐれも忘れなさんなよ、きつと十五|留《ルーブリ》ですぜ! ぢやあ手附にこの五留札《あをざつ》を一枚あづけときやせう!」
「よからう、だが、約束をたがへたらどうする?」
「約束をたがへたら、手附はお前さんのものさ!」
「ようし! ぢやあ手拍ちとしよう!」
「よし来た!」

      六

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ほい、飛んでもないこつた、うちのロマーンが帰つて来まし
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