処へ出しても恥かしくねえ立派な若い衆さ! ただちよつとばかり、お前《めえ》のおたふくづらに泥糞を塗りこくつただけのこつてねえか。」
「ええつ、ほんとにお前さんつていふ人は、ああ言へばかう、かう言へばああと、へらず口ばつかり叩いてさ! それあ、いつたいなんといふこつたね? つひぞこれまでにないことぢやないか? あ、わかつたよ、おほかた何ひとつ商なひもしない癖に、もうどつかで喰ひ酔つて来たんだらう?」
 この時、チェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークはわれながら余計なことを言つたと気がつくと同時に、屹度いきり立つた女房が、瞋恚の爪を剥いて、いきなり頭髪《かみのけ》をひつ掴みに飛びかかつて来るだらうと思つて、咄嗟に両の腕で頭をかかへた。
※[#始め二重括弧、1−2−54]どうなと勝手にしやがれ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、彼は猛々しく武者振りついて来る女房を避けながら、心の中で呟やいた。※[#始め二重括弧、1−2−54]どうといふ理由《わけ》もねえのに、立派な男を断わらにやなんねえだ。ああ、神様! なんだつて、罪深いわしどもにこんな不仕合せを下さるだね? この世の中はこ
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