つてこのかた、顔の筋ひとつ動かさねえで三合の余もある火酒をひと息に呑みほすやうな若者を見たなあ、初めてだよ!」
「あれだよ、この人には、ただもう、呑助か破落戸《ごろつき》でさへありやあ性に合ふんだからね。てつきり、そいつはあの橋の上でいやに妾たちに絡んで来やがつた、あのやくざ者に違ひないよ、でなかつたら、どんなものでも賭けるよ。今まで出喰はさなかつたのが口惜《くや》しいくらゐさ、ほんとに思ひ知らせてやるんだつたのに。」
「何だと、ヒーヴリャ、たとへその男であつたにもしろさ、別にやくざ者つてえわけあねえでねえか?」
「ちえつ! やくざ者つてえわけがないなんて! まあこの人は、なんて頓馬なおたんちんだらう! 呆れてしまふぢやないか! あれがやくざ者でないなんて! お前さんは一体、あの磨粉場《こなひきば》のそばを通る時に、その間の抜けた眼を何処にくつつけてゐたんだね? ほんとにこの人つたら、現在目の前で、その嗅煙草だらけの汚ならしい鼻の先でさ、自分の女房が赤恥を掻かされても平気の平左なんだからね。」
「それかといつて、おいらにやあ、あの男に一点、非の打ちどころがあるやうにも思へねえからよ。何
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