の郡の首都で、プショール河に臨んだ小都会。
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      四

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たとひ癪でも男としては
女の前へ出たからにや、
世辞の一つも言ふが徳……。
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――コトゥリャレフスキイ『エニェイーダ』より――
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「おい、おつかあ、おらあな、娘の聟を目つけて来ただぞ!」
「まあ、この人つたら、けふび聟さがしどころの騒ぎかい! 馬鹿々々しい! ほんとにお前さんつたら、よくよくの因果でいつもさうなんだよ! どこの国にけふび、正気の沙汰で聟さがしなんぞに夢中になつてる人があるものか? そんなことより、ちつとでも早く、麦を売り捌く分別でもしたらどんなもんだね。その上でこそ好い花聟も目つかるつてもんだよ! どうせ、また襤褸にくるまつた乞食野郎かなんかだらう、屹度。」
「へ、お生憎さまだて! どんなえれえ若者だか、ひとめお眼にかけてえもんだ! 長上衣《スヰートカ》だけでもお前《めえ》の短衣《コフタ》と赤革の靴より高価《たか》かんべえ。それよりも、火酒《シウーハ》の呑みつぷりの見事さと来た日にやあ!……おらあ臍の緒を切
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