たにつくほど丁寧なお辞儀をしながら、かう鍛冶屋が挨拶をした。
「これあ、いつたいどういふ仁ぢやな?」と、鍛冶屋のすぐ前に坐つてゐた一人が、その向ふに坐つてゐる同僚を顧みて訊ねた。
「おや、お見忘れですかい!」と、鍛冶屋が言つた。「私ですよ、鍛冶屋のワクーラですよ! この秋、ディカーニカをお通りになつた折に、(どうか御壮健で御長命のほどを祈ります)私どもでまるまる二日も御贔負を願ひました。それそれ、その節、幌馬車《キビートカ》の前輪の鉄箍《かなわ》をおつけ申しました鍛冶屋めで!」
「ああ!」と、同じザポロージェ人が言つた。「あの絵の上手な鍛冶屋ぢやつたのう。いや御機嫌よう、同胞《きやうだい》! それはさうと、どういふ風のふきまはしでこちらへやつて来たのぢや?」
「それあなんですよ、その、ひとつ見物がしたいと思ひましてね。さういふぢやございませんか、何でも……。」
「どうぢや、同胞《きやうだい》、」そのザポロージェ人は勿体振つて、自分が大露西亜語を操ることが出来るのを見せびらかすつもりで、かう言つた。「なんと、はんかな都ぢやらうが!」
 鍛冶屋は味噌をつけたり、赤毛布のやうに思はれるのが癪
前へ 次へ
全120ページ中91ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平井 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング