重括弧、1−2−54]俺は朝祷にも弥撒にも、寝すごして、よう詣らなかつたのだな!※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 そこで信心ぶかい鍛冶屋は、てつきりこれは自分から霊魂を滅ぼさうなどと、大それた考へを起した神罰のために、殊更こんなあらたかな祭日にさへ、寺へも詣られぬやうな眠りを神が課し給うたのだと思つて、しよげ返つてしまつた。だがその償ひには、来週、祭司の前で罪を懺悔することと、けふから向ふ一年間、毎日五十囘づつ、床に額を打ちつけて謝罪の礼拝をすることにしようと心に誓ひ、僅かに胸を安めて、家《うち》のなかへ入つて見たが、そこには誰もゐなかつた。明らかにソローハはまだ戻つてゐないらしい。
 彼はくだんの靴を大事さうに懐ろから引つぱり出すと、その善美をつくした細工に眼をみはりながら、ゆうべの不可思議な出来事を思ひ出して、今更のやうに驚ろきに打たれた。手水《てうづ》を使ひ、念にも念を入れて著換をして、例のザポロージェ人から貰つた衣裳を身につけ、長持の中からポルタワへ行つた折に買つて来たまま、まだ一度もかぶらない、新らしいレシェティロフ産の毛皮帽を取り出した。また、これも同じやうに新らしい
前へ 次へ
全120ページ中115ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
平井 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング