の持主であらせられた女帝は、このザポロージェ人の服装をした、色はすこし浅黒いけれど美男子と認ぬべき、朴訥な鍛冶屋の口から、かうしたお世辞をきいて、思はずにつこりと微笑まれた。
このやうな破格の優諚にすつかり有頂天になつてしまつた鍛冶屋は、女帝に対していろいろとつまらぬ、例へば、皇帝は蜂蜜や脂肪のやうなものばかり召し上つてゐるといふのはほんたうかなどといつた愚問を、くどくどと連発しようとするところだつたが、ザポロージェ人たちが彼の脇腹を小突くのに気がつくと、はつとして口を噤んだ。そこで女帝が老人連にむかつて、セーチではどんな暮しをしてゐるか、どんな風習が行はれてゐるのかと、御下問になりだしたのを機会《しほ》に、そつと後ろへ下《さが》つたワクーラは、衣嚢《かくし》へ口を寄せて小声で、※[#始め二重括弧、1−2−54]少しも早くここから連れ出してくれ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]と言つた、その途端に彼はもう、彼得堡《ペテルブルグ》の関門の外へ出てゐた。
* * *
「身投げをしたんだよ! きつと、身投げをしたんだとも! もし、身投げを
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