ののっぺらぼうになっているではないか! 仰天したコワリョーフは水を持って来させて、タオルで眼を拭ったが、確かに鼻がない! 手でさわって見たり、これは夢ではないかと、我が身をつねってみたりしたが、どうも夢ではなさそうだ。八等官コワリョーフは寝台からとび起きざま、武者ぶるいをしてみた――が、やはり鼻はなかった! 彼はさっそく着物を持って来させて着換をすると、真直に警視総監の許へ行こうと表へ駆け出した。
ところで、これが一体どんな種類の八等官であったか、それを読者に知らせるために、この辺でコワリョーフなる人物について一言しておく必要がある。八等官といっても学校の免状のお蔭でその官等を獲得したものと、コーカサスあたりで成りあがった者とでは、まるで比べものにはならない。この両者は全然、類を異にしている。学校出の八等官の方は……。だが、このロシアという国は実に奇妙なところで、一人の八等官について何か言おうものなら、それこそ、西はリガから東はカムチャツカの涯《はて》に至るまで、八等官という八等官がみな、てっきり自分のことだと思いこんでしまう。いや、これは八等官に限らず、どんな地位官等にある人間でも
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