たあ出来んぞ。素直に返答をしろ!」
「ねえ、旦那、何なら一週に二度、いや三度でも、旦那のお顔を無料《ただ》で剃《あた》らせていただきたいと思っておりますんで。」と、イワン・ヤーコウレヴィッチは答えた。
「何だ、くだらない! 俺んとこへは理髪師《とこや》が三人も顔を剃りに来とる、しかもみんな無上の光栄だと思っちょるのじゃ。さあ、そんなことより、あすこで何をしちょったのか、ほんとうのことを述べてみい!」
 イワン・ヤーコウレヴィッチは、さっと色を失った。ところがここでこの一件はまったく霧につつまれてしまって、いったいその先がどうなったのか、とんと分らないのである。

      二

 八等官のコワリョーフはかなり早く眼を覚すと、唇を【ブルルッ……】と鳴らした。自分でもこれはいったいどういう原因からか、説明する訳にゆかなかったが、とに角、眼を覚すといつもやる癖であった。コワリョーフは一つ伸びをすると、テーブルの上に立ててあった小さい鏡を取り寄せた。昨夜、自分の鼻の頭に吹き出したにきびを見ようと思ったのである。ところが、おっ魂消《たまげ》たことに、鼻はなくて、その場所《あと》がまるですべすべ
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