りざま、こっそり鼻の包みを投げ落とした。彼はまるで十*プードもある重荷が一時に肩からおりたように思った。イワン・ヤーコウレヴィッチは、にやりとほくそえみさえした。そこで彼は役人連の顔を剃《あた》りに行くのを見合わせて、ポンスでも一杯ひっかけてやろうと、【お料理喫茶】という看板の出ている家の方へ足を向けたが、その途端に、大きな頬髯をたくわえた堂々たる恰幅《かっぷく》の巡査が、三角帽をいただき、佩剣を吊って、橋のたもとに立っているのが眼についた。イワン・ヤーコウレヴィッチはぎくりとした。ところがその巡査は彼を指でさし招いて、「おい、ちょっとここへ来い!」と言う。
 イワン・ヤーコウレヴィッチは礼儀の心得があったので、もう遠くの方から無縁帽《カルトゥーズ》をとって、小走りに近よるなり、「はい、これはこれは御機嫌さまで、旦那!」と言った。
「うんにゃ、旦那もないものだぞ。一体お前は今、橋の上に立ちどまって何をしちょったのか?」
「いえ、けっして何も、旦那、ただ顔を剃《あた》りにまいります途中で、河の流れが早いかどうかと、ちょっとのぞいてみましただけで。」
「嘘をつけ、嘘を! その手で誤魔化すこ
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