やはり同じことで。さて、このコワリョーフはコーカサスがえりの八等官であった。それも、この官等についてからまだやっと二年にしかならなかったため、片時もそれを忘れることができず、そればかりか、なおいっそう品位と威厳を添えるため、彼は単に八等官とはけっして名乗らず、常に少佐と自称していた。「あのね、おい」そう彼は胸衣《むねあて》を売っている女に街で出逢うと、きまって言ったものだ。「俺の家《うち》へ来てくれ。住いはサドワヤ街だよ。コワリョーフ少佐の家はどの辺かと訊きさえすれば、誰でも教えてくれるからね。」そして相手が、ちょっと渋皮の剥けた女ででもあれば、その上に内証の用事を言いつけてから、「ね、好い女《こ》だから、コワリョーフ少佐の家《うち》って訊くんだよ。」とつけ加えたものである。だからわれわれもこれから先は、この八等官を少佐と呼ぶことにしよう。
 さて、コワリョーフ少佐には毎日ネフスキイ通りを散歩する習慣があった。彼の胸衣《むねあて》のカラーはいつも真白で、きちんと糊付がしてあった。その頬髯は今日でも、県庁や郡役所付の測量技師とか、建築家とか、連隊付の軍医とか、また各種の職務にたずさわって
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