なかったからである。
 さて、我が広大なるロシアの北方の首都《みやこ》に突発した事件というのは、以上のようなものであった! つらつら考えて見るに、どうもこれには真実《まこと》らしからぬ点が多々ある。鼻が勝手に逃げ出して、五等官の姿で各所に現われるというような、まるで超自然的な奇怪事はしばらく措くとして――コワリョーフともあろう人間に、どうして新聞に鼻の広告など出せるものではないくらいのことがわからなかったのだろう? こう申したからとて、別に、広告料がお安くなさそうだったからというような意味ではない。そんなものは高が知れているし、第一わたしは、それほどがりがり亡者でもない。が、どうもそれは穏かでない、まずい、いけない! それにまた、焼いたパンの中から鼻が飛び出したなどというのも訝《おか》しいし、当のイワン・ヤーコウレヴィッチはいったいどうしたのだろう?……いや、わたしにはどうもわからない、さっぱり訳がわからない! が、何より奇怪で、何より不思議なのは、世の作者たちがこんなあられもない題材をよくも取りあげるということである。正直なところ、これはまったく不可解なことで、いわばちょうど……いや
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