婦人連とかなり長いあいだ立ち話をしていたが、ことさら嗅ぎ煙草入れを取り出して、彼女たちの前でとてもゆっくりと二つの鼻の孔へ煙草を詰めこんで見せながら、肚の中では、【へ、どんなもんだね、牝鶏《めんどり》さん! だが、どのみち娘さんとは結婚しませんよ。ただ、単に Par amour《パーラムール》(色ごととして)ならお相伴しますがね!】と、空嘯《うそぶ》いていた。さて、それ以来コワリョーフ少佐はまるで何事もなかったように、ネフスキイ通りだの、方々の劇場だの、その他いたるところへ遊びに出かけた。同じように鼻も、やはり何事もなかったように、彼の顔に落着いて、他所へ逃げ出そうなどという気配《けはい》は少しも見せなかった。それから後というものは、コワリョーフ少佐はいつ見ても上機嫌で、にこにこ微笑《わら》っており、美しい女という女を片っ端から追っかけまわしていたものだ。そればかりか、一度などは百軒店《ゴスチンヌイ・ドゥオール》の或る店先に立ちどまって、何か勲章の綬のようなものを買っていたが、いったい、それをどうするつもりなのかさっぱり見当がつかなかった、というのは、まだ御本人が勲章など一つも持ってい
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