からないや。だが、こいつは、どの点から考えても、まったく有り得べからざる出来ごとだて。第一パンはよく焼けているのに、鼻はいっこうどうもなっていない。さっぱりどうも、俺には訳がわからないや!】イワン・ヤーコウレヴィッチはここで黙りこんでしまった。警察官が彼の家を捜索して鼻を見つけ出す、そして自分が告発されるのだと思うと、まるで生きた心地もなかった。美々しく銀モールで刺繍をした赤い立襟や佩剣などが、もう眼の前にちらついて……彼は全身ブルブルとふるえだした。とうとう下着や長靴を取り出して、そのきたならしい衣裳を残らず身につけると、プラスコーヴィヤ・オーシポヴナの口喧ましいお説教をききながら、彼は鼻をぼろきれに包んで往来へ出た。
彼はそれを、どこか門の下の土台石の下へでも押し込むか、それとも何気なくおっことしておいて、つと横町へ外《そ》れてしまうかしたかったのである。ところが、間の悪いことに、ともすれば知人に出っくわし、相手からさっそく【やあ、どちらへ?】とか、【こんなに早く誰の顔を剃《あた》りに行くんだね?】などと訊ねられることになったため、イワン・ヤーコウレヴィッチは、如何《いかん》とも
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