ぼろきれにでも包んで、どこか隅っこに置いとこう。あとで俺が棄ててくるよ。」
「ええ、聞きたくもない! 削ぎとった鼻なんかを、この部屋に置いとくなんて、そんなことを私が承知するとでも思うのかい?……この出来そくない野郎ったら! 能といえば、革砥《かわと》を剃刀でペタペタやることだけで、肝腎なことを手っ取り早く片づける段になると、空っきし意気地のない、のらくらの、やくざなのさ、お前さんは! 私がお前さんに代って、警察で申し開きをするとでも思ってるのかい?……ああ、何てだらしのない、木偶《でく》の坊だろう! さっさと持って行っとくれ! さあってば! どこへでも好きなところへ持って行くがいいよ! 私やそんなものの匂いだって嗅ぎたくないんだからね!」
 イワン・ヤーコウレヴィッチは、まるで叩きのめされたもののように茫然として突っ立っていた。彼は考えに考えたが、さて何をいったい考えたらいいのか見当がつかなかった。【どうしてこんなことになったのか、さっぱり訳がわからないや。】と、とうとうしまいに耳の後を掻きながら彼は呟やいた。【きのう俺は酔っ払って帰ったのかどうか、それさえもう、はっきりしたことはわ
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