てもまだ我慢ができたけれど、地位や身分に関しては、断じて許すことができなかった。芝居の狂言などでも、尉官に関してなら、すべて大目に見て差し支えないが、いやしくも佐官級の人物に楯つくなどという場面は絶対にいけないという考えを持っていた。で、その分署長の応対ぶりにすっかり面喰った彼は、ブルッと首を震わせると同時に、少し両手を拡げながら、自負心をこめるようにして言った。「どうも、そう、あなたの方から侮辱がましいことをおっしゃられては、まったく二の句がつげませんよ……」そして外へ出てしまった。
彼は極度に疲れて我が家へ立ち帰った。もはや黄昏《たそがれ》であった。こうしてさまざまに無駄骨を折ったあげくに見る我が宿は、世にも惨めな、きたならしいものに思われた。控室へ入って見ると、汚れきった革張りの長椅子に長々と仰向けに寝そべった下僕のイワンが、天井へ向けて唾を吐きかけていたが、それがまたじつに見事に同じ場所へ命中するのであった。その暢気さ加減には、コワリョーフもさすがにかっとなり、帽子でイワンの顔を殴《ぶ》って呶鳴りつけた。「この豚め、いつも馬鹿な真似ばかりしてやがって!」
イワンはとっさにが
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