た。
コワリョーフがそこへやって行ったのは、ちょうど分署長が伸びをして、大きなあくびを一つして、【ええっ、ぐっすり二時間も寝てやるかな!】とつぶやいた時であった。だから、八等官の入来が時機を得ていなかったことは予測に難くない。この分署長は、あらゆる美術や工芸の大の奨励家であったが、何よりも政府《おかみ》の紙幣に愛着を持っていた。【これに限るよ。】そう言うのが彼の口ぐせだった。【これに優るものはまずない。餌もいらねば、場所塞ぎにもならず、いつもかくしにおさまっていて、おっことしたとて――壊れもせずさ。】
分署長ははなはだ冷淡にコワリョーフを迎えると、食事の後で審理をするのは適当でないとか、腹を満たしたら、すこし休息するのが自然の掟《おきて》だ(こう言われて八等官は、この分署長は先哲の残した箴言《しんげん》になかなか詳しいんだなと見てとった。)とか、ちゃんとした人なら鼻を削ぎ取られるなどということはあり得ないと言った。
まさに急所を突かれた形である! それにここでちょっと指摘しておきたいのは、コワリョーフがひどく怒りっぽい人間であったということである。自分自身のことならば、何を言われ
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