か、こんなことを言っている。
「ね、旦那、その狆《ちん》ころといえば、十カペイカ銀貨八枚の値打もない代物ですよ、もっともわっしなら二カペイカ銅貨八枚も出しゃしませんがね、そいつを伯爵夫人の可愛がりようといったら、それあ大変なものでしてね、その小犬を探し出してくれた人には、お礼に大枚百ルーブルだすというのですよ! まったくのところ、現にわっしと旦那とだってそうですが、人間の好き嫌いって奴は実に様々なものですねえ。好きとなったが最後、ポインターだのプードルだのという犬を飼って、五百ルーブルでも千ルーブルでも気前よく投げ出す人がありますが、その代り犬も上物でなけあね。」
 分別くさい係員は大真面目な顔つきで聴き耳を立てながら、それと同時に、提出された原稿の文字が幾字あるかを勘定していた。あたりには皆それぞれ書付を手にした、老婆だの、手代だの、門番だのといった連中が多勢立っていた。その書付には、品行方正なる馭者、雇われたしというのもあれば、一八一四年パリより購入、まだ新品同様の軽馬車、売りたしというのもある。そうかと思うと、洗濯業の経験あり、他の業務にも向く十九歳の女中、雇われたしとか、堅牢な
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