呶鳴りながら、馬車屋の背中を小突きつづけた。馭者は頭《かぶり》を振り振り、「いやはや、この旦那は!」とつぶやいては、まるで*スパニエル犬のように毛のながい馬の背を手綱で鞭打った。ようやく馬車がとまると、コワリョーフはハアハア呼吸《いき》をはずませながら、あまり大きくもない受付室へ駆けこんだ。そこには古びた燕尾服を着て眼鏡をかけた白髪の係員がテーブルに向かって、ペン軸を口にくわえたまま、受けとった銅貨の勘定をしていた。
「広告を受け付ける方はどなたです?」とコワリョーフは呶鳴って、「あ、今日は!」
「はい、いらっしゃい。」そう言って、白髪の係員はちらと眼をあげたが、そのまま又、堆《うずたか》くつまれた銭の山へ視線をおとした。
「ちょと掲載して貰いたいことがあるんですが……」
「どうかしばらくお待ち下さい。」そう言って係員は、片手で紙に数字を記入しながら左手の指で算盤《そろばん》の玉を二つ弾《はじ》いた。モール飾りをつけた、よほど貴族的な家に雇われているらしく小ざっぱりした身なりの従僕が、一枚の書付を手に持ってテーブルの傍に立っていたが、自分の気さくなところを見せるのが礼儀だとでも思ったの
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